【藤野英人さん第3回】物事はすべてグラデーションの中にある

きれいな真実はない

──藤野さんに伺いたいもう一つのテーマがあります。因果関係の話です。

はい。

──『スリッパの法則』『【図解】スリッパの法則』で、スリッパというものが、その会社の業績とどういう因果関係があるかは分からないけど、何か相関性があるというのが面白かったです。

うん。

──『もしドラえもんの「ひみつ道具」が実現したら』も因果関係を、まるで探偵するかのようにたどっていくのがすごくスリリングで面白かったんですね。

はい。

──今、ビジネスでは因果関係を本気になって突き詰めようというスタンスが意外とないと思うんです。表面的に「こうでしょ」って分かったつもりになっているパターンか、「分かんないや」ってお手上げ状態か、両極端になっている。

ええ。

──藤野さんの場合は、スリッパを見て、因果関係は分からないけれども相関関係があるってピピピッと反応する部分と、こういうふうに起こるんじゃないかって徹底的に因果関係を突き詰めるパターンと、両極端の中のグラデーションがあるなと思ったんです。

はい。

──因果関係について、突き詰めたいという動機がもともとあったのでしょうか。

今、グラデーションと言っていただいたんですけど、それ、キーワードだと思ってるんですよ。

要するに、「きれいな真実はない」っていうところが、僕の考え方のスタートなんです。白黒はっきりつけられない。物事はすべてグラデーションの中にあるはずなんですよね。

でも、「グラデーションの中で、だいたいこっちの方だろうと緩やかに分類することはできるんじゃないか」というのが僕の持っているそもそもの発想法なんです。

かつ大事なことは、「そういう類推はよく間違う」ということも強く自覚していることなんですよ。

──ああ。

「正しい判断がどこかにある」も幻想

「正しい判断がどこかにある」というのもたぶん幻想で、その時、その時に必要な、もしくは必要だと思っているアイデアであるかもしれないけど、でも、僕にとって正しいことが、ほかの人にとって正しいか分からないし、今の僕にとって正しいことかもしれないけど、5年後の僕にとって正しいことかは分からない。

「正義」とか「善悪」とかって、ものすごい相対的だと思ってるんですよ。人間って、それぞれの立場で考えたり、感じたりしていて、とんでもないことを考えたりしているんですよ。強烈な裏読みをしていたりね。「おまえ、そんなこと考えてたのか!」みたいな。

──ええ。

あと、自分に対する不安のあまり、相手に対してすごいネガティブな感情を持ったりとか。それもよくある話で。

だから、価値というのも人によって大きく違う。出発点はそこにあると思うんですね。で、評価者によって見えるものはまったく変わってくる。その人の経験や関心事によって、見えるものが全然違うんです。

たとえば、同じようにここに座っていても、人によって見えているものが違うと思うんです。

女好きだったら、僕らなんか見えないで、傍らにいるスタッフの女性を見るだろうし、スマートフォンに関心がある人だったら、机の上の携帯を見て、何製だろうとか、いくらだろうとか分かると思う。

家具に関心がある人は、この家具がイタリア製なのか、本革なのか、それとも合皮なのかといったことを見てたりするし、僕らの話に関心がある人はじっと聞いているけれども、関心がなければ今日の夕飯のことでも考えているだろうし。

自分が作った会社だからドアの指紋が見える

人って選択的にものを見ているんですよ。

会社の建物を見るにしたって、起業家が見るのと、従業員が見るのとはまったく見方が違ってくる。それを強く感じたのは、自分がこのレオスという会社を創業した時なんです。

会社のドアに指紋がいっぱい付いてたんですよね。それで僕は「こんなに指紋がベッタリ付いてるのに、何でみんな気がつかないのかなあ」と思いながら、「かんたんマイペット」とかで拭いたんです。

それで、当時はまだ僕、ゴールドマン・サックスにも在籍していて、ゴールドマンのオフィスに行ったんですね。すごいカッコいいオフィスです。そこでハタと気がついてね。

「オレって今まで、会社のドアの指紋を1回でも拭いたことあるのか」と。で、ゴールドマンをぐるぐる歩いてみた。すると結構、指紋が付いてるんですよ。でも、それまではまったく見えなかったんです。なぜなら僕の会社じゃないから。ドアはお掃除の人が拭くものなんです。だから全然見えない。

レオスは自分が作った会社で、自分がお金を出したもの、自分が所有するものというこだわりがあるから、指紋が見えるようになるんです。

──ああ(笑)。

これって、よくあるオーナー経営者と従業員の風景でね。「おまえ、ドアが汚れてるじゃないか。拭いてこい」とか言って、社員が見に行って「汚れてないです~」って帰ってくると、「ちょっとこい!指紋が付いてるだろう!」って怒る。「あの社長は細かくてうるさいなあ。一体どこの小姑だよ」みたいな話があるじゃないですか。

──はい(笑)。

でも、それって関心の差なんですよ。

人って見ているものがまったく違うということを前提にして、評価者によって変わってくるし、バラバラなものだと認識することがすごく大切だと思います。

さらに、そのバラバラのイメージをどれだけ持てるかが重要ですね。たとえば、北海道に住んでいる25歳の独身女性・アルバイトの人と、東京に住んでいる60歳の既婚男性・経営者だと、見ている風景がまるで違うでしょう。ニュースを聞いても何をしても。

だから、できれば幅広い人たちとディスカッションしたりして、考え方のグラデーションを持った方がいい。

藤野 英人
1966年生まれ。
90年早稲田大学法学部卒業。
レオス・キャピタルワークス「ひふみ投信」ファンドマネジャー。東証アカデミーフェロー。明治大学非常勤講師。

野村アセットマネジメントを経て、96年ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。2000年にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント・ジャパン・リミテッドに入社。中小型・成長株ファンドの運用にあたる。2003年レオス・キャピタルワークスを設立、現在に至る。
著書に『スリッパの法則―プロの投資家が明かす「伸びる会社・ダメな会社」の見分け方』 (PHP文庫)『もしドラえもんの「ひみつ道具」が実現したら タケコプターで読み解く経済入門』(阪急コミュニケーションズ)『ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義』(PHPビジネス新書)『【図解】スリッパの法則 5000人の社長に会ったプロが教える!伸びる会社vs危ない会社の見わけ方』(PHP研究所)がある。

Ryusuke Koyama

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