【磯崎哲也さん第4回】熱狂的な市場が身近に生まれている

フラッシュマーケティング市場がものすごい競争になっている

たぶん、ベンチャーがそうしてパートタイム的に人を使える期間というのは、特定の時期に限られると思います。初期の、まだ海のものとも山のものともわからないようなときが好きな人も結構いますが、立ち上がった後の勢いづいているときだと、すごいスピードで、パートタイム的な関わり方では厳しいかもしれない。

私、クーポンサイトの「Piku(ピク)」(http://www.piku.jp/)を運営しているピクメディア株式会社の社外監査役に今年7月に就任してまして。ここのスピードが今すごいんですよ。日系カナダ人のデイブ・モリさんという人が社長で、今年3月からやり始めた事業なんです。

──へえ。

アメリカにグルーポンという会社がありまして、そこが「フラッシュマーケティング」という手法を始めたわけなんですが。

──はい、はい。

たとえば、レストランやエステの50%オフのクーポンをネットでワーッと集めて、ユーザーが共同購入するというビジネスモデルなんですけど、今年3月には日本にピクメディア1社だけだったのが、私が監査役になった7月には、もう15社から20社に増えていて、今は100社を超えているんです。

1つの市場が1年も経たないうちに、これほどコンペティティブな市場になるのは、日本では非常に珍しいケースだと思います。

ピクメディアは1年以内で9億円ぐらいの資金調達をしましたし、もう1社、「Q:pod(クーポッド)」というサイトがあったんですが、これは米グルーポンから投資を受けて、「Groupon(グルーポン)」(http://www.groupon.jp/)として今年10月からサービスを開始しました。

IVSというベンチャーキャピタルの小林雅さんが、米グルーポンとQ:podをうまく結びつけて、企業価値で10億円超えるような投資を呼び込んでいるんですね。小林さんはグリーへの投資を成功させた人でもあります。

日本でもそんなにコンペティティブな市場が出てきたんだなあと思っていたら、中国は今年7月の時点でもう200社あると聞いて大笑いして、10月に聞いたら、1000社を超したって。

──1000社!(笑)。

さすが中国だと思いました。まだまだ日本の競争というのはゆるいんです。

──これでも甘い。

日本の問題は人の流動性が少ないこと

ピクメディアに投資をしている一人がドイツ人の投資家ミカイル・ブレム氏ですが、この人はドイツで最大手のソーシャルネットサービス「Studi.vz」を共同創業して、その会社がバイアウトされて、ファンドを立ち上げ、非常に資金力があるわけです。それで世界各国の、フラッシュマーケティングのベンチャーに投資しています。彼はいつも「世界中で日本が一番展開のスピードが遅い」と言っています。

それはピクメディアの人たちがさぼっているということではなく、社会の構造として、他国に比べて人材を集めるのがなかなか難しいからなんじゃないかと思いますね。

たとえば中国だと、北京や上海など各都市にガーッとすごい勢いで展開していって、「こういう事業やる?」と言ったら、「やるやる!」ってワッとすぐに集まると思うんです。でも日本だと、どこかの地方都市で「誰かいい人いない?」と声をかけてもなかなか見つからない。

もちろん誰でもいいから採用するだけ採用して、後でダメなヤツはクビにすればいいや、というならもう少し急成長できるのかもしれません。しかし、日本はクビを切るということには慎重にならないといけない国なんです。

──そこが問題ですね。

今より簡単にクビを切れる社会がいいかどうかはさておき、人の流動性が少ないというのはやっぱり問題でして。

──そのレベルになると、パートタイムでお願いするわけにはいかないし。

そうなんです。「こういう人いない?」って探して、「週に3日ぐらいなら出て来られます」という人がいても、その人に大きな仕事は任せられないですよね。スピード感のあるベンチャーでは、毎日どんどん状況が変わっていくのに。

──ええ。

だから、ベンチャー企業がまだ海のものとも山のものともわからないようなときは、ある程度ゆっくりやって、まだ競合もいないぞってときに、「今のうちにガーッとやっちゃおう」って人を集めて、あわよくば引きずり込んじゃって、資金調達してガッといくのがいいかもしれない。

──そのレベルになったら、もう覚悟を決めてそのベンチャーに入ってしまう、と。

そうです。ピクメディアも優秀な人がバシバシ入ってきてます。グーグルでマーケティングやってた女性だとか、アマゾンで働いていたネットに詳しい男性とか。

──へえ。

私が監査役に就任した7月には西荻窪の狭いマンションの一室を借りていて、タコ部屋みたいに人があふれてたんですよ。机が足りないので社長もコピー機の上で書き物しているみたいな。そこにさらに毎日、2人ずつ新しい人が入ってくるみたいな状況で。

──ハハハ。

「ちょっとコピー取るね」って誰かが言うと、みんな一度、パソコンをシャットダウンするんです。電源のブレーカーがバンと落ちるから(笑)。

──アハハハ。

電気を全部コピー機に集中しないといけない。エアコンもつけられない。

──うわあ。

それで、9月に千駄ヶ谷のかなり広いビルに引っ越したんですけど、先日、そのビルをさらにもう1フロア借り増して、すごいスピードで成長しています。

──ハ~。面白いですねえ。

コンペティターが出てきて、そのぐらい熱気を帯びてくると、パイの奪い合いで自分の取り分が少なくなるというんじゃなくて、人々の注目も集まって、パイが大きくなる側面もあるんですね。

秋葉原もそうですが、電気屋さんが1社だけより、競合がたくさん集まっている方が賑わうんです。

やっぱりガーッと盛り上がってるところというのは面白いですね。そういう状況が日本のあちこちで起こってくると、日本経済全体が刺激を受けて、盛り上がってくると思います。

──この熱気にどう入っていくかですよね。

そうですね。

「日本はもうダメだ」と言う人は、熱気のないところにいるだけ

──「日本はもうダメだ」といろんな人が言っていますが、僕は世界を見ても、熱気のあるところと熱気のないところがあると思うんです。

ええ。

──日本もよくよく見ると、熱気のあるところとないところが分かれている。「日本はもうダメだ」と言っている人は、たいてい熱気のないところにいるんですよね。

ああ。

──実は国内にも熱気のあるところは探せる。そこに一歩踏み込むことは、ちょっとした行動でできる気がするんです。

そうですね。

──それが今後の日本の活性化にもつながっていく第一歩というか。

その通りだと思います。

「アニマル・スピリッツ」を持とう

──本の中で書かれていた「アニマル・スピリッツ」をたくさんの人に持ってほしいですね。

ええ。ベンチャーを起業するには、ある種の動物的欲望、「アニマル・スピリッツ」が必要だと思います。これ、本当は「アントレプレナーシップ」というのがベンチャーの世界では普通の言い方なんですけど、あえて「アニマル・スピリッツ」と言ってみました。

経済学者のケインズは、事業を拡大する「投資」は、「アニマル・スピリッツ」によるのだ、と言っています。

人間がいくら予想してもわからない不確実な未来へのチャレンジは、合理的な判断の積み重ねで出てくるものじゃないんです。強い思い込みや根拠のない自信が時には重要になるわけです。

もちろん、同時に合理性も併せ持たなければ、ただのアホになっちゃうんですけどね(笑)。

──それでも賭けてみようというクレイジーさが必要。

マクロで見ると、そういう必ずしも合理的でないチャレンジで投資が発生し、全体でGDPが増えて、世の中うまく回っていくんです。

たとえば、「Piku」と同じようなビジネスモデルの会社に投資している人たちがいるとします。投資先が20社あるとして、1社に1億円ずつ投資したら、社会全体では20億円が投資されますよね。

で、そのうち19社が潰れたとしたら、ほとんど全部が失敗したように見えますけど、最終的にそのうちの1社が時価総額300億円の会社になったとしたら、マクロで見ると、逆に全然ペイしているわけです。

投資家20人のうち1人だけが大儲けで後は大損ということにも必ずしもならない。投資というのは、ちゃんと自分の負えるリスクの度合いに応じて分散投資すればいいわけです。そうすることによって、社会全体では結局、パイが膨らむんです。

「成功する確率が20分の1しか無い」といったものにチャレンジすることは、冷めた人から見ると「アホか」と思うかもしれませんが、そうしたチャレンジをたくさんすることによって、全体としても非合理じゃなくなる。競争の中から、本当にいいものが残って行くわけです。

──はい。

ただ、自分が投資した1社、自分が起業した会社が生き残るかどうかっていうと、それはわからない。

──だからこそ「アニマル・スピリッツ」を持たないと。

そうです。リスクのあることにチャレンジしたら、当然、失敗する確率もゼロではない。だからこそ、「失敗しても最悪の事態にならないファイナンスのしくみ」を学ぶ必要があるんです。

そうすることによって、たとえ事業がうまくいかなくても、その貴重な経験した人材が次の事業に生かせます。そうやって起業が増えると、社会全体としてはうまく回っていく。

──もっと起業を増やさナイト(笑)。

また、イベントやろうかな(笑)。

Ryusuke Koyama

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