【磯崎哲也さん第2回】「変化対応力=人とのつながり」が勝負

植木等の世界から不確実性の世界へ

──『起業のファイナンス─ベンチャーにとって一番大切なこと』には、起業家が持っておくべき世界観みたいなものが書かれていて、面白いと思いました。

まさにその「イメージ」をお伝えしたいと思って書いたんです。

──昔みたいに、30歳になったら係長になって、40歳になった課長、50歳前には部長で……と計画通りに人生が進む世界から、今はもう不確実性の世界になってきていて。

ええ。

──昔と今の大きな違いは何でしょうか。

小山さんがおっしゃった通りでして、昔は未来のイメージがクリアで直線的に進んでいけた。まあ、そうは言っても波乱万丈はあったんでしょうけど、でも社会全体としては成長が見えていて、まさに植木等の世界だった。

──フハハハ。

サラリーマンをやっていれば、とにかく出世していく。そういう時代だったわけですけど、今はそうではなくなりました。

一つは、日本の成長がそう望めなくなったことと、もう一つは、世界的にグローバルな競争になってますので、日本だけを見て競争しているわけにいかなくなった。

今までは競争相手をだいたい見渡せたんです。たとえるなら、「あいつ、小学生の頃、泣き虫だった」とか、子供の頃からの素性が全部わかっているような人たちと競争していた。しかし今や、全然そうしたことがわからないインド人や中国人と勝負しないといけない時代になってきている。

そうなると、不確実性に対応できるような仕組みを作ってビジネスに取り組む必要があると思います。

変化に対応できる人が求められている

──よく、「ベンチャーキャピタリストは優秀な人になればなるほど、起業家のビジネスプランじゃなくて人を見る」と言いますね。

はい、実際そうなんですよ。

──それは僕もいろんなところで聞いていて、僕の知人は「ビジネスプランはいいから、おまえに出資する」と、ビジネスプランもないまま出資してもらえた。

ええ。

──すごいプランを作る人というよりも、何か起こったときに対応できる、変化に強い人が求められているということなんですよね。

その強さというのは、ソーシャルグラフ(友達や知り合い同士の関係、「友達の輪」)の中に飛び込んでいって、イケてるヤツらを連れて来られるとか、イケてる契約を取ってくるとか、そういう能力があることだと思います。その能力がないと起業するのは厳しい。

──1999年頃は渋谷のビットバレーのような、ベンチャーのサークルというか、ゆるやかなつながりみたいなのがあったと思うんですけど、今はそういうのはあるんでしょうか。

今と10年前の最大の違いは、ツイッターやSNS、ブログなどでネットワークが目に見える形になってきていることだと思います。物理的スペースに集まるよりも、はるかにすごいことになっていますよね。

ビットバレーの、特に最後のヴェルファーレで2000人ぐらい集まったオフ会(「ビットスタイル」)は、全然ネットワークとは言えなかった。ただ、人がぎゅうぎゅう詰めで集まってるだけで、ほとんど会話もできない状態でした。

その後、2000年代前半からブログが登場し、ミクシィなどのSNSが出てきて、今やツイッターが流行し、フェイスブックが流行りかけている。今の方が、よっぽど内容の濃いコミュニケーションが取れていると思います。

──そのベンチャーのネットワークには誰でも自然に入っていけるものなんでしょうか。

今、一番自然な入り方としては、ツイッターじゃないかな、という気がします。「ツイ飲み」とか、結構いっぱいあるじゃないですか。

気になる人のツイッターをフォローしてて、気になる人にちょこちょこアットマークを付けてからんでいて(注:ツイッターでは、ある人のアカウント名[アットマーク「@」で始まる]をつけてツイート[短文を送信]すると、その人に呼びかける形になり、気づいてもらいやすくなる)、「今度、飲み会あるけど行く?」とかって誘われて、そういうベンチャーの輪の中にぽっと入る。

──なるほど。

昔ってブログを書いてても、「飲み会しよう」って話には全然ならなかったですよね。

──ああ。

ツイッターだと、毎日のように飲み会の企画があって、昨日も今日も明日もあるみたいな。ホント、人と会う敷居が下がりました。

先日もやっぱりツイッターで、ベンチャー企業の法務をやっている人を中心に、いろんな人と集まったんですけど、情報がすごい入ってきますね。「あいつ、いいよ」とか、「今、転職考えてるらしいよ」とか。

実際には初めて会った人たちばっかりだったんですが、ツイッター上では前からよく知っていたので、いきなり会ったのに話がものすごく盛り上がるんです(笑)。

──へえ。

人と人とのつながりが変化への対応力になる

日本って、お役所なんかもそうですが、技術とか特許とか権利とかモノとか、そういう役所の書類として目に見えるものや、わかりやすいものを非常に尊ぶんです。

でも、今はそういう静的な「モノ」だけがあっても変化に対応できない。人と人とのつながりが変化への対応力になるので、そこがポイントだと思います。

──これ、ある人が言ってたんですけど、昔は起業家が主人公であり、ヒーローだった。ところが今は、ヒーローはコーディネーター的にいろんな人をつなげて、群像劇みたいにみんなを主人公にして、その劇をちゃんと回せる人が起業家として成果を上げるんだ、と。

そうですね。

──ソーシャルグラフじゃないですけど、一人の点がいくら強くても、孤立した点だとまったく成果を上げられないということですよね。

結局、競争というのはスピードに対応できるかどうかなんですよ。競争がないゆるい市場だとあんまりスピードはいらない。

でも、競争が厳しくなってきて、オレと同じことを、ほかのあいつもこいつもやり始めてるじゃんってことになると、何が勝負を決めるかというと、やっぱりドンと先にお金を調達して、イケてるヤツらをたくさん集めて、システムや営業部隊をガーッと作っちゃおうと、そういうことができないと勝てないんです。

──はい。

じゃあ、スピードをどうやって上げるかっていうと、やっぱりソーシャルグラフ、人と人とのつながりなんですよ。

「ネットワーク」というのは異業種交流会でいっぱい名刺交換することではないんです。2分間立ち話しても、その人の能力なり本性なりはなかなか見抜けない。しかしツイッターだと、あまり手間ひまかけなくても、何カ月にもわたって、多くの人と付き合えるわけです。

たとえば、ある人がどんなことを言う人なのか、他人とどのように関わる人なのか、いいヤツなのか嫌なヤツなのかがわかっちゃうわけです。

ツイッターつながりで、すごい人がCTO(最高技術責任者、chief technology officer)として来てくれちゃった、みたいなケースも増えています。会ったことはないけど、「来いよ」って声をかけたら、「やりましょう!」みたいな話にすぐなったりする。話が非常に早い。

料亭での重い関係から、ツイ飲みの軽い関係に

ソーシャルグラフの意味というのも、昔流の「高級料亭の奥座敷で酒を注ぎ合って『おぬしも悪よのう』」といった重い関係から、もっと軽くて早い関係になってきている。

──ウハハハ。最近ホント、そういう傾向がありますね。

ええ。

──要は、人が信用できるかできないかを、昔は長い付き合いとか、人からの紹介とかで判断してたいたのが、今はどちらかというと、価値観が合う合わないで判断するケースが増えてきている。

そうですね。

──別にそんなに深い関係でなくていい。価値観が響き合う人であれば。それは軽いんだけれども、実は一致しているところはきっちり一致していて、昔の「信用」以上にしっくりマッチするというところがある。

よく商売で「信用が一番大事」と言いますよね。「信用」って何なのかを突き詰めて考えていくと、結局、情報処理コストの話になると思うんです。情報処理のコストを大きく下げてくれるものが「信用」なんですよ。

「こいつ、何者?」と疑い出すと、全部がウソに見えてきちゃうわけです。「○○大学卒って言っているけど、ホントかな?」「住所中野区って書いてあるけど、本当かな」っていちいち疑ってたら、卒業証明書や住民票ももらわないといけないし、コストも時間も非常にかかってしまう。

でも、自分が信用できる人から、「あいつ、優秀だよ」と一言言われるだけで、「ああ、優秀なんだろうな」と。「あの人が言うんだったらまず間違いないんだろう」と思える。

「ブランド」もまさに「信用」なんです。「信用」があれば、情報処理コストをすごく下げてくれる。世の中に存在する森羅万象は要素が多すぎるので、どう組み合わせていくかを考えようとすると、膨大な組み合わせになってしまう。

──ええ、取り扱えないですよね。

その中から、これが最適だとパッとわかる。こいつとこいつを組み合わせると、一番うまくいくとわかるかどうかが、情報処理コストの中で一番大きい問題。「信用」があればそれを瞬時に解決してくれる。だから「信用」は商売で大事なんだと思います。

──ただ、昔の「信用」のイメージと、今の「信用」のイメージはだいぶん違ってきてますよね。たとえば、ナベツネが球界にホリエモンを入れないとか。

はい。

──こうした古~いタイプの「信用」と、新しいタイプの「信用」の違いは何なのか。

要するに、昔は信用を形成するのに非常に長い時間が必要とされたわけです。事業構造もそうした古いタイプの「信用」でやっていけるものだった。

しかし、ネットの世界はまさに今そうですが、技術革新のスピードが速くて、世界的ですごい競争が起こっている。そのスピード感の違いだと思います。

今でもたとえば、和食の高級料理店を作ろうとした場合は、そこそこ古い感覚が求められるのかもしれない。由緒あるお店できちっと修行をした板前さんを呼んできて、とか。そういう発想になるかもしれない。

そういう人を連れてきたら、確実に集客やキャッシュフローが見込めるというなら、古いタイプの「信用」でもいいんだと思うんです。

──はい。

ただ、競争が非常に厳しいところだと、そうはいかなくなってくる。

──ですね。

日本はベンチャーに冷たくない、むしろ甘い

ただ、日本ってベンチャーはある意味、恵まれているんですよ。なんか日本って、起業家があんまり尊敬されないとか、冷たく扱われるだとか、資金がつかないだとか、破綻したら破産だとか、そういうことが固定観念でよく言われます。しかし、結構甘やかされているというか、条件いいんですよ、実は。

──そうですか。

たとえは悪いかもしれませんが、何の取り柄もない、プータローでプラプラしている若者が、「オレ、仕事ないから起業したいんだよね。オレに投資してくれよ」って言っても、誰もしませんよね。

「この事業はやったこともないし、よくわからないんですが……」っていう社長に、本当にお金がつける必要があるのかっていうと、ないわけで。それは冷たくされても仕方がない。

一方で、日本は学歴や経験にかかわらず、「面白い」と思われると、結構お金がついちゃうんですよ。

──ああ。

ところが、シリコンバレーなんかは「面白い」だけでは資金はつかない。グーグルでもスタンフォードの非常に高学歴で、アメリカの中でもトップクラスの大学院生が、検索エンジンの理論的な研究をしているところにお金がついたわけです。

アメリカは就職するのも何するのも全部、日本よりははるかに学歴が問われると思います。シリコンバレーだと大学院を出ていないと、書類選考で落とされちゃうみたいな世界なんです。

私なんか大学の学部しか出ていませんから、シリコンバレー的にはかなり「低学歴」の部類で、上場企業の社長なんかになるのはかなり難しいと思います。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは大学中退でしたが、今の学歴競争はもっと厳しい。

起業も「1回やったことがある」なんていう人はザラで、何回も会社を成功させる「シリアル・アントレプレナー」もたくさんいる。

それに比べて、日本って、学歴に関わる度合いも低いですし、また、過去に会社を立ち上げた経験がなくても活躍できているので、そういう意味では非常に多くの人に起業のチャンスがあると思うんですね。

アメリカ人から言わせると、日本の競争は随分甘いと思いますよ。まだ起業をするヤツそのものが少ないから、相対的にチャンスは大きいんです。

チャンスがあることにみんな気づいていないのがもったいない

だから今、非常に広い人にチャンスがあるのが日本なんですよ。そのことにみんなが気づいていないのがもったいないと思います。

別に全員サラリーマンを辞めてベンチャーをやれ、とはまったく申しませんけれども。

──ハハハ。

やっぱり向き不向きがありますからね。しかし、そういう道があるんだってことを知ったうえで、「あ、やっぱりオレには起業は向かないや」っていうのと、知らないでずっとサラリーマンとして勤めるというのとは、全然違うと思うので。

そういう意味で、私は多くの人に対して、「起業して会社が潰れたからって個人破産しなくていい道もあるんですよ」という当たり前のことを知ってもらいたいんです。

──詳しくは「起業のファイナンス」を読めと(笑)。

ええ、ぜひ(笑)。

Ryusuke Koyama

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