【磯崎哲也さん第1回】起業しやすい環境が整ってきた

起業しようというサラリーマンや学生が増えている

──磯崎さんが書かれた『起業のファイナンス─ベンチャーにとって一番大切なこと』がとても売れているそうですね。

おかげさまで好調なようです。

──どんな人が読んでいるんでしょうか。

昔と違って、最近はツイッター(http://twitter.com/isologue)で反応が返ってくるので、非常に読者層がイメージしやすくなっています。一番初めに反応していただいたのは、私のブログ「isologue」(http://www.tez.com/blog/)の読者。そして、だんだんそれ以外の人に広がっていったと想定しています。

アマゾンの売れ行きを見ると、発売初日に売れた部数の推定5割が私のアマゾンへのリンクをクリックして飛んでいった人のようです。その比率は日が経つにつれて、だんだん下がっていっています。

最初は大手の法律事務所の弁護士さんや税理士さん、大学の会社法の教授の方など、日頃からお付き合いのある方を中心とした方。私のツイッター(http://twitter.com/isologue)をフォローしていただいている方が買って、その後だんだん、「起業してビジネスやってます」とか「これから起業したいです」というビジネスマンや学生さんが購入されていったのではないかと思います。

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──最近は昔に比べて起業家を目指す人がずいぶん増えてきているのを感じますよね。

絶対増えていますね。1999年までは、普通のサラリーマンが起業を考えるとか、学生が起業を考えるという風土はまったくなかったに等しいですから。

1999年に「証券ビッグバン」というのがあって、証券手数料も自由になり、上場する基準も実質的に大きく下がりましたので、上場しやすくなったんです。

昔は会社設立から30年ぐらい経たないと上場できなかった

それまでは、会社設立から30年ぐらい経ったような、社長がおじいちゃんみたいな会社しか上場できない感じでした。つまり、設立したばかりの会社に投資すると、30年間お金を取り戻せない。それじゃあ投資はムリだろうということだったんですけど。

──ハハハ。

会社を設立して3年目ぐらいで上場できるようになったら、投資しても十分ペイするので、それで投資も活発になってきた。「世の中を変えてやる!」「ウチのサービスを世界中の人に使ってもらいたい!」といった大きな野望がある起業と、株式による投資は表裏一体なんですね。

──なるほど。

私は1998年に長銀総合研究所を辞めて、今のカブドットコム証券の設立準備に携わりました。1999年が証券ビッグバンの年だから、とにかくオンライン証券会社を作ろうということで、まさにこの近く、青山通りの雑居ビルの上の方の階で準備を始めたんです。

他のメンバーは、実際の具体的な証券会社のシステムやオペレーションを考えてましたが、私はそのチームとは別の資金調達方向の活動を主にやっていました。

当時、お金を出してくれる人をさんざん探し回りましたが、まだどこの馬の骨ともわからない若造に何億円ものお金を出すなんてのは、あり得ない雰囲気の時代でした。

──設立メンバーはみなさん若かったのですか。

今、社長や常務になっている人たちなので、もう40歳超したオッサンたちですけど、当時は30代です。私も30代でした。

とはいえ、若造だからお金を出してくれないというのは言い訳で、ほぼ同時に設立したマネックス証券社長の松本大さんは私の2歳下ですが、ちゃんと資金を調達して、証券会社をボンと作っちゃった。

──はい(笑)。

資金調達がしやすい、資金調達がいらない

だから、できる人はできたわけですけど、一般的には何の実績もない人にお金がつくことはなかった。でも、今はそうした人にも資金がつく可能性は格段に高まっていまして、10年前に比べれば起業への注目度は高まっているのではないかと思います。

私が社外監査役をしていたミクシィの笠原健治社長も、東大在学中に自分で会社を始めましたし、グリーの田中良和社長も楽天を辞めて、グリーを設立しましたし。

起業家を目指す人が増えている理由は、資金調達がしやすくなったことのほかに、資金調達がいらない起業が増えてきていることもあります。

特にネット系はそうです。10年前だったら、ちょっとしたシステムを作ろうと思っても、すぐにサーバーやソフトウエアなどの設備投資が10億円単位で必要になっていきました。

──ああ。

でも、2006年にミクシィが上場したときには、資本金が6420万円しかありませんでした。資本準備金(株主からの出資のうち、資本金に計上しなかったお金)が3420万円。つまり、合わせて1億円弱しか資金調達していなかったわけです。いかにお金がいらなかったかということです。そして、この傾向はますます拍車がかかってますので、今は、さらに起業しやすい環境になってきています。

──本の中で、「ベンチャーの生態系を作り上げることが必要」と書かれています。その生態系の中に、今はサラリーマンや学生が生息し始めているんですね?

広い外辺部に棲んでいますね。

これ、私がこの本を書こうと思ったきっかけでもあるんですが、昨年12月に「起業を増やさナイト」というイベントを開いたんです。レオス・キャピタルワークスの藤野英人さん、ディー・エヌ・エーやインフォテリアに投資をした日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)の村口和孝さんという有名なベンチャー・キャピタリストの人と3人で、「起業を増やそう!」というイベントを夜やろうと。

ツイッターやブログで呼びかけただけなんですけど、120人ぐらい集まりまして。

──へえ。

そこに集まったのは、職がなくてブラブラして起業でもしようかっていうような若者ではなくて、ちゃんと大企業で働いている人や、ちょうど起業する前後の人たちでした。大企業の人たちも、かなり活躍している人が多い感じだったのですが、しかし「今のまま大企業に勤めてても大丈夫だろうか」みたいな問題意識を持っている人が多かったんです。

イベント後に雑談すると、みなさん、目をキラキラさせて、いろいろしゃべってくれるんです。すごい熱気なんですよ。

──そうですか。

何回かそういうイベントをやってきたんですけど、みなさん、起業に熱心だなあという印象で。

大企業にいても先が見えない時代

──大企業にいても先が見えないですしね。

そうなんですよ。

──大企業に居続ける方が、かえってリスクが高いかもしれないですし。

そういう面があると思います。

──とはいえ、まだまだ起業のハードルは高いところがある。じゃあ、サラリーマンがいきなり会社を辞めて、「明日から起業します!」と言っても、そのステップが難しい。

だから、副業型起業みたいなビジネスが多いですね。たとえば、ネットのビジネスなんかは、サーバーを立てて会員を集めて、みたいなことは会社に勤めながらでも全然できちゃうわけですよ。

グリーの田中さんがまさにそうですよね。楽天に勤めながら、就業時間が終わった夜、自分でサーバーを運用していた。彼、法学部出身なんですけど、楽天の技術者などにいろいろ聞いて勉強して、自分でグリーのサイトを組んだんです。それで何十万人も会員を集めた。

しかも、当初はお小遣いで買える程度のサーバーを何台か用意しただけだと思います。つまり、何千万円というような投資ではなく、数十万円、数百万円程度の投資。「副業型起業」というと、「毎月のお小遣いをちょっと稼ぐ」といったイメージが強いかも知れませんが、現在、時価総額2000億円を超えるようなビジネスですら、その大元は「副業型」でできてしまうということです。

で、田中さんはグリーの会員がそこそこ集まった段階で、今逃したらもうチャンスはないと思われたのではないかと思いますが、楽天を辞めて自分で会社を作り、資金調達して成長していきました。

ミクシィは笠原さんが大学在学中の時からもうビジネスをやっていたわけで。

──ええ。

まったく何もなくて、「オレ、何ができるの?」みたいな状態で会社を辞めて、すでに稼いでいる収入を捨てるのはキツイと思うんですけど(笑)。

─ははは。

ビジネスの種があって、これはイケそうだというのがわかってから起業するという手もあるわけです。特にネット系では、最近非常によく見かける光景になってきましたね。

──僕の知人の南壮一郎さんは、年収1000万円以上の転職市場に特化した転職サイトを立ち上げて、半年ぐらいで2億円の資金調達をしたんですが。

はい。

──立ち上げのときに、メンバーは会社で働きながら、いろんな人にボランティア感覚で手伝ってもらって。

へえ。

──で、立ち上がって資金調達ができたら、じゃあ興味があれば会社を辞めてこっちに転職をする、みたいな感じで。

ああ。

──就業時間以外に、自分一人でじゃなくて、みんなで共同してやっていった。まあ、メインになる人は本腰を入れてやってるんだけれども、その人だけじゃ回らないので、いろんな人で回していったというんです。そういう形態も、最近ではでてきているみたいです。

クラウドの充実によって、自宅にいながら仲間と仕事ができる

それには、クラウドなどが充実してきて、コミュニケーションツールが非常に発達してきたことも大きいと思います。

たとえば、ミーティングはスカイプでやっちゃうとか、ファイルはドロップボックスで共有しようとか。これまでなら、そういうシステムを作ろうと思ったら、何百万円、何千万円もかかったと思うんですけど、今は基本的にタダに毛が生えた程度でできちゃう。

実際に集まらなくても、友達同士、夜でも昼でも話ができるとなると、オフィススペースもいらなくなってきますよね。

──はい。

自宅を拠点にして、友達同士がまったく会わないで一緒に仕事しているみたいな形態が増えてきていると思います。

「上場を目指そう!」なんて力が入ってなくても、たとえば、デザイナーさんのグループみたいなのは、個々のメンバーは自宅にいて、ファイルはネット上で交換して、スカイプでディスカッションしてっていう感じでやっていたりします。投資がいらない起業は、本当に簡単になってきている。

──はい。

昔は会社を作るときはちゃんと店舗や事務所を作ったり、在庫も持ったりしないといけなくて、何千万円もの投資が必要だったのが、今はウェブサイト1個作るだけでいい。

──そのサイトのデザイン次第で、本当にしっかりした会社に見えますしね。

「背水の陣」は敷かなくていい

だから起業のハードルはすごい下がってきていると言えます。「背水の陣!」っていう悲壮な感じは必ずしも必要ではない。

──(笑)アメリカのベンチャーの37シグナルズの社長が、「昔みたいに、会社を辞めて背水の陣じゃないとベンチャーは成功しないというのはウソだ」といったことを本に書いています。

はい。

──「安定した職を持ちながら、副業的にやった方がかえって冒険もできるし、そっちの方が成功するんだ」と。

そうですね。

──こんなやり方は、昔の感覚でいうと…。

ナメてんのかっていう(笑)。

──そうそう(笑)。気軽に趣味で始めたベンチャーなんかが大きく化ける世の中になってきているなあと思いますね。

私も結構、古い人間で、気合いを入れたりするのは好きなんですけど(笑)。

──(笑)そうですか。

好きなんですけど、いらないムリはしない方がいいと思うんですよ。「必要のないリスクは取らない」ということが非常に大切。

──はい。

ベンチャーは銀行からではなく、株式で資金調達せよ

今どきのベンチャー企業の社長がツイッターで、「もし会社が潰れたら、自己破産するっていう気合いでやってますから」とつぶやいていたので、「気合いはいいけれども、実際に自己破産してしまうようなファイナンスの組み方をしちゃいかんのじゃないかなあ」と返答したことがあります。

──たしかに。

銀行から借り入れて社長が個人保証したけど、事業がうまくいかなかったとします。そうすると、再生する見込みもないけれど自己破産するのもいやだという宙ぶらりんの状態が続くわけです。

そういう相談を時々受けることがあるんです。一度、事業がうまくいかなかったけど、次に新しいことを思いついたと。それで、いいビジネスプランをベンチャーキャピタルに持ち込んでも、前の借金が残っているわけです。

ベンチャーキャピタルの人が「新しい事業に3000万円投資しましょう」ということになっても、そのうちの2000万円はまず借金の返済に費やされるとなると、ちょっとバカバカしい気がしてしまうわけです。投資するのが。新しい事業が成長してほしいから投資をするのに、その資金の3分の2がムダになっちゃうように見えてしまう。

──ええ。

銀行に借金をする場合は、本当に確実にキャッシュフローが見込めるときでないといけない。

たとえば、アパート経営で、テナントが付くのが確実だとかで、毎月必ず返済できますっていうなら借りてもいいけど、そうでない場合に銀行に借りたら、思い切ったリスクは取れません。来月から100万円ずつ返済が始まると思うと、絶対に売り上げを立たないといけないし。

だから、もし銀行がお金を貸してくれたとしても、イノベーティブ(革新的)なことを志向するベンチャーは借りるべきではないというのが私の主張なんです。

──はい。

今は金利が安いので、つい銀行から借りたくなるかも知れませんが、社長が個人保証をしていて事業がうまくいかなかったら結局、社長個人が借金をかぶることになりますので。

ちゃんとした銀行などで借りれば、返せなくなっても、サングラスをかけた人がドアをドンドン叩くといった取り立てをされるわけじゃないですけど、でも、借金が残ってしまうことには変わりありません。

借金というのは「こういうスケジュールで返済して、金利も払います」という「約束」です。借金を返さないということは、その約束を破るということです。「日本は、失敗した人が再チャレンジしにくい社会だ」と言う人がよくいますが、「約束を破った人」を信用してくれというのは、世界中どこの国でも難しいと思うんですよ。

一方、株式というのは、基本的に「返さなくていいお金」なんですよね。利益が出たら株主に配当してもいいですが、ベンチャー企業は成長に資金が必要なので、基本的にあまり配当はしません。

しかも、分配できる利益もないのに配当することは会社法でも禁止されています。このため、将来、たとえば上場したり、会社をバイアウト(買収)されたりしたときに、そのキャピタルゲイン(株式の売却益)で儲けてください、というのがベンチャー企業への株式による投資です。だから、企業はリスクを負ってイノベーティブなことにチャレンジできるんです。

──はい。

たとえば、半年間、ずっとシステムの開発に没頭して、その後、売り上げが立つかどうかもまだよくわからないといったことは、銀行借入でやっちゃダメです。

しかし、「そういう計画です」「リスクがあります」とちゃんと投資家に説明して株式で資金調達した場合には、そういうリスクがあることにもチャレンジできる。

正直申し上げれば、すべての人が必ず株式で資金調達できるというわけではないですけども、「資金調達しないでビジネスができないか」「どうしても調達が必要だが、株式で資金調達できないか」と、そういうふうに考えた方がいいですよと言いたい。

──副業的にスタートして、非常に少ない資金でやっていくと、いかんせん時間がかかることがあるんですよね。

そうですね。

──一人でやっていると特にそうですけど、全然立ち上げまでいかないとか。そういうときに、やっぱりお金を調達して、人の力を借りながら、スピードを持ってやっていくって、ものすごく魅力的にうつる。

ですね。

──でも、やっぱり個人保証を抱えると、万が一、失敗したらどうしようと思う。そこをうまく橋渡しできるような、仕組みがあるといいですね。

磯崎哲也
1984年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システム等の経営コンサルタント、インターネット産業のアナリストとして勤務した後、1998年ベンチャービジネスの世界に入り、カブドットコム証券株式会社社外取締役、株式会社ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師等を歴任。

現在、磯崎哲也事務所(http:// tez.com/)代表。公認会計士、システム監査技術者、公認金融監査人。ビジネスやファイナンスを中心とする人気ブログ「isologue」(http://tez.com/blog/)および、メルマガ「週刊isologue」(http://tez.com/mag/)を執筆。

■ブログ: http://tez.com/blog/
■メルマガ: 「週刊isologue」http://tez.com/mag/
Ryusuke Koyama

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