【小池龍之介さん第4回】初めてこの道を歩いているという感覚を持つ

小山龍介によるインタビューシリーズ。今回は、お坊さん小池龍之介さんに、現代を生き抜く知恵を伺っていきました。今回は最終回となる第四回です。

第一回 「幸福」を「興奮」と取り違えた僕たちに、本当の幸せはこない
第二回 オリジナリティーという幻想、永続という空想
第三回 現代人は「苦痛」をモチベーションにしている

「なんでオレ様がこんな仕事を」とふてぶてしい態度だった

私自身の失敗談を一つ、申し上げておきます。昔、学生時代にお寺に下宿していたときの出来事です。お寺の檀家さん方にハガキを500通ぐらい送るというので、ラベル貼りの仕事を頼まれました。下宿していた私に、「あいつ暇そうだから、やらせよう」って感じで任されたんですけど、当時の私はすごいプライドが高かったんでしょうねえ。「自分はクリエイティブで有意義な仕事じゃないとやりたくない。なんでオレ様がこのようなことをやらなければいけないのか」と、ふてぶてしい態度でやっていまして。

──(笑)はい。

イライラしているので、ラベルも曲がって貼ってしまうわけです。それ以外にも、掃除を頼まれたり、いろいろな雑用をやらされるたびに「エエーッ、なんでオレ様が」という感じでやっていたので、そのお寺の人たちから、「あいつは鼻持ちならないやつだ」と思われて、最後、そこを出るまで、そういうつまらないことしかやらせてもらえませんでした。

──アハハハハ。

でも今なら、(燭台を上げ下げする)たとえこういう作業でも充足感を感じることができます。

条件付きというのは幸福ではありません。「こういう仕事だったら幸せ」とか、「こういう仕事だったらつまんない」というのではなく、どちらも楽しめるのがいいことです。今でしたら、ラベル貼りも楽しめる自信があります。

──ハ~。今、また思い出しました。ある外国人が日本に来て坐禅を組んで、仏教のトレーニングをしていたときに、そこのお坊さんがいつも同じギャグで笑う、と。しかも大きな声で、初めて聞いたかのように。でも内心、毎日同じことを言っているのに、なぜ笑えるんだろうと不思議だったそうです。あとで分かったのが、それこそが仏教の教えの本質だった、と。

なるほど。

──初めてそれを聞いたかのように、初めてその人に出会ったかのように、常に新鮮に反応する。

はい。みなさんがたぶん、とてもイヤな思いをするのは、こういう状況だと思います。1回打ちかけているメールを間違って消してしまった。「ああ!また同じメールを打ち直さなきゃいけない」という。

もし、単にそのメール最後まで打ち終わったあとに、「もう1通、同じ時間がかかるメールを打ちなさい」と言われても、そんなにイヤじゃないと思うんですよ。新しいメールだから。ところが書いたものが消えた、もう1回初めから打たなきゃいけないと思うと、なんでイヤなんでしょうね。

──いろんな思いがドーッとわき上がりますね。

それも「慢」なんですよ。

──ハ~。

自分が失敗したことを認めるのがイヤ

「自分が失敗した」ということを認識しなければならないのがすごくイヤなわけです。打ち直すときに認めなきゃいけない。

「次は失敗しないようにしよう」と、さっと切り替えられればいいんですが、それが難しい。

失敗したことを「うわーん、失敗したよお」「失敗したよお」「失敗したよお」「失敗したよお」……と、エコーがかかって過去に意識が引きずり込まれてしまう。

ちなみに、それも刺激的なんです。「あー!!」という強い刺激。そのノイズがしばらく頭の中を回っているせいで、新しい現実に対応できない状態になる。

あるいは、こういう状況はどうでしょう。職場で仕事の3分の2ぐらいまで終わったのに、どうしても必要な資料を家に忘れてしまったとき。家に取りに帰らなくてはならない。

──ゲンナリしますね。

帰り道はまだしも、家からもう1回同じ道を会社まで行く途中で、絶えず意識させられます。「私が失敗した」「忘れ物をした」「そのせいで同じことを繰り返さなきゃいけない」「ガーン!」「自分はダメな人間だ!」「自分はダメな人間だ!」「ガーン!」「ガーン!」「ガーン!」……。これが「慢」の煩悩で、ひたすら苦しい。

──はい。

「さっきも歩いた道をまた歩いている」というノイズに飲み込まれそうになったら、今、歩いている動作に意識を向けるといいんです。「今、右足」「今、左足」「今、右足」「今、左足」……というように集中し直せば、頭の中で残響している「あー、またこの道だよ」「またこの道だよ」「この道だよ」……というエコーから逃れることができます。

さっと気持ちをゼロに戻して「今」にスイッチを入れ直すために、さっき歩いた道でも「初めてこの道を歩いている」と思い、さっき打ったメールでも「初めてこのメールを打っている」という意識になることが必要なんです。

成功も強い刺激、過去に引きずり込まれてしまう

刺激が強いものほど、私たちを過去に引きずり込んでしまうのですが、失敗だけでなく、成功に執着することも強い刺激になります。

「ほら、普通じゃないだろう」「オレ様のオリジナルだぜ!」みたいなすばらしい本ができて出版されたとしたら、すごくうれしくなりますよね。でも、それはそれで問題なんです。あんまり喜ぶと、それもエコーがかかってしまって、「ほら!うまくいっただろう!」「ほら!うまくいっただろう!」「ほら!うまくいっただろう!」「ほら!うまくいっただろう!」……って、そのうれしさがずーっと続いてしまう。

──ああ。

次にやらなきゃいけないことがあるのに、やり始めても、「ほら!うまくいっただろう!」って思ったり、ほかの話題人と話しているときも思い出して、つい言いたくなったり。

次の企画を考えているのに、「あれはうまくいってよかったなあ」と思うせいで、次の企画に意識が向かなくなったりします。

結局、失敗も成功も平常心を損なって、過去に心が飲み込まれてしまいやすいので、どんな仕事であれ、なるべく「今」に意識が常に戻ってくるようにすることが大切です。

「あ、過去に飲み込まれた!」と気づいたら、残響しているものが頭の中に響くたびに、「過去に飲み込まれちゃってるよ」「過去に飲み込まれちゃってるよ」「過去に飲み込まれちゃってるよ」……と心の中で念じるといいです。

あんまり深刻にならずに、ちゃかすようなスタンスで唱えるのがコツです。第三者的視点で、「この人、過去に飲み込まれちゃってるね」「この人、過去に飲み込まれちゃってるね」……という感じで考えると、バカバカしくなって、興奮している状態が静まっていきます。そうすると意識が「今」に向かって、充実しやすくなります。

「老い」を楽しむことは「無常」の微妙な変化をとらえることに通じる

──ちょっと早いですが、30代半ばになってくると、「老い」を感じることがあります。

早いですねえ(笑)。

──昔はできたことができない。たとえば徹夜がもうできなくなっていて、それはもう自分で自己認知せざるをえません。

壊れていく。

──ええ、壊れていく。で、普通は「老い」がつらいことですよね。でも、これを「変化」だととらえると、「老い」を楽しめるのかもしれないと思いました。前に書いた同じメールをすぐ次の瞬間に書いているんだけど、実は前の自分と自分は違っていて。

そうですね。

──だからこそ、それを新しいと思えるかどうかということと、「老い」をどうとらえるかということが似ているところがあるなと。

そうですね。「無常」という微妙な変化をとらえる。

さっきのメールで、5分後ぐらいに書き直さなきゃいけなくなったものは、おそらく1回書いている分、前より少し相手に配慮する余裕ができたり、あるいは「さっき書いたのはちょっと細かすぎたから、もう少し簡潔な内容に書き換えよう」とか、そういうことができますしね。

ただし、「あー、失敗した!」という感情でイライラしながら書き直すと、気持ちを切り替えて書き直すときよりも、不機嫌な分だけ内容がよくなくなってしまいます。

なるべく、さっきおっしゃったように新しい気持ちで、老いを楽しむように、5分間老いた分、今の自分だったらどんな感じになるかなあと思いながら書けば、前回よりもいい内容になるかもしれませんよね。

せっかく「1回練習を経ている」というメリットがあるのに、わざわざ「あー、このオレ様が失敗した!また同じことを」なんて思うせいで、イヤな内容になるかもしれません。前と同じ分量を書くのが面倒くさくなっちゃって、半分で済ませたり、適当な文面になったり。もったいないですよね。

──あー、なるほど。

そこを楽しめるといいですね。

──分かりました。「老い」を新しい変化と考えて楽しみます。ありがとうございました。

ありがとうございました。

1978年生まれ。山口県出身。月読寺(東京都世田谷区)住職、正現寺(山口県)副住職。東京大学教養学部卒。2003年、ウェブサイト「家出空間」(http://iede.cc/)を立ち上げる。2003年から2007年まで、お寺とカフェの機能を兼ね備えた「iede café」を展開。自身の修行を続けながら、月読寺や新宿朝日カルチャーセンターなどで一般向けに坐禅指導を行う。これらは常に満席で、「もっとも予約が取れない坐禅教室」として話題に。主な著書に、『考えない練習』(小学館)『「自分」から自由になる沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎)『煩悩リセット稽古帖』『貧乏入門』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)『偽善入門』『仏教対人心理学読本』(ともにサンガ)、などがある。

Ryusuke Koyama

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